あぶくときえるは、















 彼は、  答えない。




 「なぁ、誰なんだよ、お前」もう一度問うても、彼は答えない。


 ただその、優しい彼と同じ眼で、優しい彼と同じ髪で、優しい彼と同じ顔で、 悲しい彼と同じ姿で、 其処に立ち、ガイの言葉を聞き、そして。


 その右手を掲げ、光が宿ったと思えば、


 また。




 途轍もなく近くで、 あの音。








「…なっ、また爆発!?」
「……宮殿!?そんな、ガイが居るのに!」

 全てが陽動なのか。それともリーダー自身が特攻するとは。その驚きを全て含んだように アニスが叫び、ティアが続く。そしてナタリア。

「ガイを助けに参りましょう!」
「…いけません。共倒れになります」
「大佐!何を言ってるんですか!」
「………行くな、と言っています」
「そ、んな…」

 ティアがほとんど泣きそうな顔になるが、まだナタリアは。

「…私は行きますわ!助けなければ!」
「それこそ賛同できませんね、ナタリア姫?」
「……貴方と言う人は…… えっ…?」


 ナタリアが返り見た、先、 何かが通り過ぎて行った。




 まだ続く爆発により崩れかけた宮殿の入り口。

 そこへ向けて、迷い無く走って行くその、彼。


 腰に付けた剣の柄に右手を添え、迷い無く走っていく彼。




 彼はまだグランコクマに居た。
 フードを被ったまま。

 自分を誰にも明かさないまま。


 迷いも無く宮殿の中へ、入って行った。




 皆、それを見送るだけだった。


「…あれは、誰、…なのですか」


 まるで唇が泳いでいるように疑問が流れる。
 だが皆思った。




 二人。


 フードで自分を隠したのは、

 二人。






 疑問に思ううちにまた音が鳴る。
 彼の通った入口が瓦礫で閉じられてしまった。

「……一体…」

 誰なのか。

 全てが。


 そしてまた音。直接揺さ振られるような一際大きい破壊音が響く。


 宮殿が破裂した。

 としか言いようがない。あああれでは彼が押し潰されてしまうではないか。 そんなことを思ったが、ジェイドもティアもアニスもナタリアも、ピオニーすらも、それを呆然と見ているだけ。 青い瓦礫が降る。

 ああ


 届かない。


「どうして…」

 ナタリアだ。

「どうして行かせなかったのです!」

 声帯を吐き出さんばかりに、ジェイドに掴み掛かる。

 「仕方がありませんでした」

 無慈悲に述べられた言葉には、まるで絶望しか浮かばない。

「…嘘ですわ」

 崩れ落ちた。宮殿も。
 そう思った。




 だが。


 光が見えた。




 白い光が青を纏い、ちょうど謁見の間。 その部分の瓦礫の山を包み込み、何かの蕾のように閉じ、ふ、と開いたと思えば。

 その部分の一切が、消えていた。






 消え去っていた。





           あぶくと消えゆく仄る孔へ


I / R / 堕天 / アイオーン