だ
か
ら
そ
の
時
の
為
に
時間が過ぎていく。夜になるのが嫌だった。月が出るのが怖かった。人は眠らなくてはならないという。 思考を巡らせる為に、体を休ませる為に。夜はその為にあるのだろう。絶望の為にあるのではないのに。 結局ティファレトにはそれらしきものは何もなく、アルメロの機嫌を損ねただけに終わってしまった。 アニスの提案によりダアトに向かう事になっている。 アルビオールがあるのだから、少しでもいいからダアトに戻りたいのだという。 大方そこに残してきた、フローリアンの事が心配なのだろう。それを察して皆了承し、ついでに ダアトでも情報を収集する事となった。 「静かね」 朝だった。雨が降っていた為、冷えた空気のきんとした匂いがする。やっぱり眠ってないのね、 ティアがごちる。 「目が冴えちまったんだよ」 「…もうちょっと言い訳のバリエーションを増やしたらいいんじゃない?」 「厳しいなぁ」 「フローリアンに会う?」 「そうだな、会いたいな。ずっと会っていないしな」 「そうね」 ティアの穏やかな態度に、ガイは少し驚いた。 「…躍起になって眠らせようとしないんだな」 「だって眠らないんだもの。もう8時になっちゃうし、ナタリアもそろそろ起きて来るし」 「……ごめんな」 「…眠りたいのに眠れない、っていうのなら、仕方ないかなって思うの」 朝日が冷たい空気を覆うが、まだ少し肌寒い。ティアは開いていた窓を少し閉め、外を歩くダアトの 住民を一瞬だけ見る。この宿には何度泊まったかわからない。 「…あの後の数ヶ月くらい、私も…眠れなかったわ」 ああ、そうだったのか。気丈で毅然としている彼女が。そうだったのか。やはり愛していたからか。 それが居なくなったからか。戻って来ないかもしれないからか。 「やっぱり、そうだよな」と呟く。彼に関係した者が、何もないなんておかしいんじゃないか。 「アニスも急に寂しくなる事があるって…ナタリアもたまに眠れないでいるし、大佐はどうなのかしらね、 何か思う所があるみたいだけど」 「……なんか悪いな、俺だけ」 「貴方の彼への入れ込みようは保護者を通り越してたもの。仕方ないわ」 「はは、なんだそれ」 「子供をなくした親とはきっとこういうものなのですわね」 「えっ?ナタリア?」 「最初の方は一番元気だったのにぃー!」 「あれ?アニス?」 「やー皆さん朝っぱらから元気ですね〜」 「…ジェイド…」 いつの間にか大集合となってしまった。 ナタリアとしては話し声がするから行ってみれば案の定ガイは起きている。怒鳴りつけようかとも思ったらしいが 、すぐ後に来たアニスに「ほっとこうよ」と傍観。その後のジェイドに「はいはい行きますよ〜」と侵入、ということらしい。 「フローリアンに会うのでしょう?行きますか」 何か思う所があるらしい彼が優しく言うが、何を思う事があるのか。眠れない時があるのだろうか。寂しくなる時が あるのだろうか。それを認めるのか。 それがわからなかった。彼の赤い、赤い眼からは、何も感じ取れない。 「ねぇアニス、ルークは?」 フローリアンの無邪気な質問に、うっ、と思いっきり口籠もった。「まだ帰って来ないのよ」とティア。 本当に無邪気なものだ。ガイも、自分も、問いたかった。何処へ。何処に。生きて、いるのか (願わくばまだ、)と。 そろそろ行かなくちゃ、とフローリアンは笑うと、アニスも笑って手を振った。ダアトは以前のような 荘厳さはもう廃れてしまっているが、慈善団体としての教会はまだ詠師、唱師が集まっている。 「ジェイド、これからどうするんだ?」 「…グランコクマに戻りましょうか」 「…か、って?」 「暗礁に乗り上げています。…恥ずかしい話、「お手上げ」という奴ですよ」 その「お手上げ」のポーズをしてみせる。ダアトでも、リーダーらしき人物を見た、という情報しか 無かったのだ。 「あちらから出て来るのを待つ、というのは気乗りがしないんですがね」 「当たり前ですわ。住民や、私たちにとっても危険ですもの」 「…嫌な感じだわ」 ティアの感じた物は何かとは、彼女自身もわからず、出待ちしかない状況が嫌なのだと勝手に理解した。 本当は違ったのだ。 まるでグランコクマに何かを孕んでいるようで。 それが嫌だったのだ。 |