此
れ
を
見
る
か
も
し
れ
な
い
昨日は俺が添い寝してやった、彼があくびをしながら言うから。多分やはり、あまり寝ていなさそうだ。 どうせ一途な彼の事だ、寝るまで起きててやるなんぞと言ったに違いない。だから余計に眠れなかったんだろう。 「じゃーん!これが目に入らぬか!」 アニスが高々と掲げ上げた―といっても、アニス自体の身長が低めな為、そこまで高い訳ではないが。 それは、ピオニー九世直々の勅命状。 見せられた女性は心底嫌な表情をした。 「…それで、ここを疑ってるのね?」 「いえいえ、滅相もない。念の為ですよ」 「…ほんとうに?」 「はい、勿論」 やっぱり嘘臭い、と彼女が呟く。確かにジェイドは嘘ばかりで固められた人物であるし、的を射た発言に ガイは苦笑いをしていた。 「アルメロ。別に、ここにいるレプリカたちを疑っている訳ではないんだから」 「どうだか…調べられるってのは良い気分じゃないって事はわかってるだろ」 「それはそうだけれど…」 ティアが言葉を濁すと、彼女―アルメロは、しかし勅命を受けたって事じゃあ対応しないわけにもいかないから、 仕方がない、そういう意味になる言葉を告げる。 「では、宜しいんですのね?」 「何度も言わせんな。でも長居はごめんだよ」 「わかってるさ、ありがとう」 アルメロは若い女性、だが、物言いや考え方は男性のそれが少し混ざっている。 ナタリアもガイもアルメロの事は嫌いではなかった。粗雑な話し方の中にも優しさがあるからだ。 アルメロは人間らしかった。 というのも、アルメロは試験的に、かなり早くに生み出されたレプリカだからだ。レプリカが大量に 生み出された時も、彼女はダアトで詠師として、居た。今のティファレトがあるここにレプリカたちを集めたのが 彼女だった。 それにつけても、ティファレトは大きかった。ケセドニアに近いイェソドールほど賑わってはいないが、 大規模な居住区があり、人通りも多い。が、やはりレプリカは総じて物静かな為、不気味な程の静寂がある。 「大佐ー、調べるって、具体的に何するんですかぁ?」 「これを使います」 ちょうど街の中心にある広場で調査をする、というから来た訳だが、何をするのか。それを聞けば、 ジェイドが取り出したもの。何かしらの音機関のようだ。ポケットから取り出せる程の小さいものだが、 確かにそれは精密なものであるとわかる。 「なんだ?何をするものだ?」 「…やっぱり食い付きますのねぇ」 どんな時でも音機関大好き・ガイにはいい加減呆れ果てる。 「第五音素を半径10キロに渡って計測できます。簡易ではありますが、一番手っ取り早いし、信憑性もある」 「どういう意味ですか?」 「ティアは知りませんか? ロルカの使う武器は、第五音素を用いた爆弾や重火器です。 それが密集している所があれば、そこに居るか、そこを弾薬庫…あわよくば彼らのベースがあるかもしれません」 「ああ、そういうことですか」 第五音素が全てそのモニターには映るが、武器として扱われる第五音素は、通常火を焚いたりするだけで 映るそれとは規模が違う。しかもそれが密集していれば、そこに何かしらがあると考えて良い訳だ。 ここでガイが「俺がやる」と言ったが、それを聞く前にジェイドはさっさとスイッチを入れてしまった。 ガイの行き場を無くした手が泳いでいる間に計測はあっさりと終わり、笑顔で「どうしましたか、ガイ」確信犯だったとわかる。 「…残念ですねぇ、怪しいものは全くありません」 ジェイドが手のひらを空に向け、首を振る。それにナタリアが「喜ぶべきですわ」と付け加えるが、 またも笑顔で「これは失礼しました」と言うだけ。 「…それでも、油断はできないわ。せめてしらみつぶしに探ってみませんか」 「勿論そのつもりです」 「ええ、仕方ありませんわ」 「ぶーぶー。何もないならいーじゃないですかー」 「何かあるかもしれないだろう?」 わいのわいのと語りながら何処へともなく歩き出したが、ジェイドはそこに棒のように立っているまま。 アニスがそれに気付くが、ジェイドはそれに反応しようとしない。「あれば良かったんですがね」何かがあれば それで良かった。そんな事を呟くと、アニスは「良い訳ないですよう」と言う。 「…ええ、そうですね。さて、行きますか」 「は〜い!」 それでも在ればよかったのだ。 在れば今すぐにでも全てを断ち切らせよう。 彼は 彼は、水の音が鳴りやまない都に、居た。 彼は、グランコクマに居た。彼はグランコクマが嫌いだった。水の音が跡切れない。 ずっと鳴り続ける流れる音。それを、忌み嫌っていた。歩いているうちに、自然と機嫌が悪くなっていく のに気付いた。だが、ここに居ねばならなかった、そして。 擦れ違う。 同じ、フードで顔を隠した、 彼と。 ただ、擦れ違った。 だが振り返った。右側を通り過ぎた彼が。それに気付いて彼も振り返る。 だがフードは取らない。顔を見せる気は無い。彼の口が動く。 声は出さない。 だが確実にその唇は。 『ルーク?』 それを見た彼は大袈裟に、長い溜息を吐く。 そして、返事をしないままに、彼に背を向けた。歩き出した。 だが、去らなかった。彼はここで、待っていた。 |