い
つ
か
も
し
か
し
た
ら
貴
方
が
飛んでいる時だった。彼は眠っていた。もっと叫びたくなった、馬鹿だろう、って。 どうしてこんな時に眠るのか、詠ってあげても眠らないのに、どうして。すぐに起きなくちゃいけない 時にどうして眠るのか、どうして月は彼を連れ去るのか。 …ああ、もう、起きてしまった。 彼は水の音が鳴りやまない都に居た。 彼はグランコクマに居た。人通りの少ない所を選んで歩いていた。宮殿に近い。日が暮れかかっていた。 そのせいで余計に人は少ない。そちらの方が好都合ではあった。 もう一度宮殿を仰ぎ見、すぐに足早に歩き出した。靴の音が水に鳴く。 更に影になる所へ入り、其処で。 呼ばれた。 「リーダー」 彼はその言葉に返事はしない。 「どーだった、宮殿は」 返事はしない。 「潜伏すんの?」 返事は無い。 「了解。みんなに伝えるよ」 彼は一切、返事をしない。 ように、見えた。 「リーダー自ら見に行ったらしいんだけど、やっぱり手薄だってさ。後ろからついて回る金髪はいないし、懐刀の姿も 見当たらないって。チャンスじゃない?忍び込んでさ、爆弾とかしかけて宮殿ぐらいぶっ飛ばしちゃおうよ」 「…いや、駄目だそうだ。今日にでも戻ってくるだろうとさ」 「戻って来ないかもしれないじゃん!」 「ボスが言うんだ。従え」 「……わかったよ。…あれ、でも潜伏はするんだよね?」 「…戻ってきてからやるんじゃないのか?つまり」 「ネクロマンサーとあの金髪、ついでにキムラスカの王女も、ってことさね」 彼の仲間が話を進めるが、彼は一切、言葉を口にしない。 そのまま彼は仲間の下へ歩き、座り込む。何も話さない。 仲間が彼に水を渡す。受け取る前に、ずっと被ったままだった、フードを取る。 街を包む夕陽に溶け込むような、赤い髪。 水を受け取り、その時に額に髪が流れてきた。 それを煩わしそうに、後ろへ押しやる。 彼は。 彼は、 世界に、 何も。 何も、 感じていなかった。 「お帰り俺のガイラルディア!寂しかったぞ!」 「誰があんたのですか、誰が!」 「この俺をあんた呼ばわりとはなぁ、はは」 ただいま帰りましたと言い終わる前に、ピオニーの言葉にて遮られた。 抱きつかれるわ撫で回されるわでもみくちゃにされているガイを尻目に、ジェイド。 「陛下、勅命状を出して貰えませ」 「ガイラルディア、怪我しなかったか?ちゃんと寝たか?」 「………」 その後にティアが「してました、大佐のせいで」と続けるものだから何も言えない。 「なんだと!?ジェイドお前、死んでもかまわんぞ」この台詞には「百年経ったら考えますよ」と返しておいた。 「そんな事よりもピオニー陛下、私たちはティファレトを調査したいのです。 勅命状を出して下さいませんか?」 「……何故わざわざこっちなんだ、ナタリア姫。ティファレトはキムラスカ領地内だ。俺が出すより、インゴベルト殿に 言った方がよかろう」 「まぁ陛下、まさかほとんど私用であるというのに勅命状を出せと、一国の王にお頼みしろと申しますの?なんておかしなお話でしょう」 「…ジェイドに似てきたんじゃないか?姫」 「いやぁ、そんな事はないでしょう」 と、言うわけで、下さい。ジェイドがにこにこと吐く。俺は都合の良い王様かよ、と呟きつつかなり不機嫌な顔になったが、 ふと何かを思い立ったらしく、口元をつりあげにやついた。ちなみにずっとガイをかき抱いたままだ。 「…そうだな、貴公らは俺の良き友人でもある。頼まれたならこっそり書いてやってもいい。 可愛くおねだりしてくれたらな」 ナタリアとガイの血の気が引いた。 「では、陛下。今度こそとっておきのおねだりをしてさしあ」 「お前以外だ」 「…失礼ながら、勅命状を賜りたいのですが…」 「アニスのだ〜いすきなピオニー陛下、おねが〜いv」 「……あの、勅命状を…書いて、下さいませんか?」 「…………勅命状を出して下さいませ」 よしわかった!という情けない変態の声が響いた。もし、今初めて彼を見た者ならば、 まさか彼を皇帝とは、断じて思うまい。 |