わ
か
ら
な
い
か
も
し
れ
な
い
眠らなかったくせに。朝には普通に見える彼は、夜のうちに何処かへ行っているのだろうか。むしろ 連れ去られているのかもしれない、月にでも。暈の綺麗な月を見ると、そう思ってしまうから。 (それならば彼は幸せなのではないか) イェソドールを発ったものの、不気味な程にガイは疲れた様子を見せなかった。 いつものように笑い、いつものように歩き、いつものようにそこに居る。 街道を外れて進んでいるのは、オブコニカの助言だった。街道を少し外れてみれば、面白いものが見れる、と。 まさにそれはその言葉そのものであった、イェソドールから少し出ただけで、レプリカたちを暗に牽いていく馬車に出くわしたり、 レプリカたちに暴行を働く者に出くわしたり。それをマルクト軍としてジェイドが逮捕する者もあれば、斬り伏せる時もあった。 ティアはそれに吐き気がしていた。 未だにレプリカを認めない世界に吐き気がしていた。 認められないのではない。 認めない世界に、吐き気がした。 もし彼が帰ってきても、世界に居場所があっても、命に居場所が無いような気がして。 世界に向かって暴言と反吐を吐いてしまいたかった。 「ティア。顔色が悪いぞ」 「その言葉はそっくり返すわ」 まさにその通りで、ティアとしては不機嫌になる考え事をしていただけ。 ガイは身体的に危ない。いつ隙を見て譜歌を詠ってやろうかとチャンスを窺っているぐらいだ。 夕方になり、タタル渓谷も近くなった。留まっているのは、ジェイドが気を利かせて休憩しようと提案したからだ。 渓谷は夜が良い。ナタリアとアニスもきっと夜に来る事を想定しているだろう。 「今日は満月ですかね」 昨日、彼を連れ去った月は、まだ満ち足りなかった。 今日ならきっと綺麗に円を描くだろう。 彼は鉱山の街に居た。 彼は鉱山の街に居た。ホドを見渡せるあの場所で見た、その時と同じ緑色の淡い光。それを捜していた。 セフィロトに似た一筋の光を捜し、鉱山の街に居た。 ホドの方向を仰ぎ見た。綺麗な満月が浮かんでいた。不意に彼はその方向へ飛んででも行きたい衝動に駆られた。 だが押しとどめた。違ったからだ。それは違ったからだ。果たすにはまだ早いし、何より違うのだから。 …何が? 何であったか? 何が違うのだった、か。 朧気にも覚えていなかった。根を詰めて考えれば、何を果たすのかも曖昧だった。彼は小さく舌打ちをした。 覚えていなかった事にではなかった。ここに、この鉱山の街に、何もなかったからだった。その事に苛立って、 何が違ったかなど、どうでも良くなった。 彼はここに来るまでも、姿を晒そうとはしなかった。誰とも話さず、顔も見せなかった。そのままで彼は鉱山の街を 去った。 彼は鉱山の街を去った。 |