思った通りだった。やっぱり眠らなかった、否、眠れなかった。

















「推測でしかありませんよ」

 ジェイドが、珍しく怒りを帯びたように言う。

「私の言った事は推測でしかありません。つまり彼をルークと断定するには早すぎます。むしろ、髪が 赤かったというだけだ。それよりも彼が、世界全てを敵に回し、各地を襲撃するなど有り得ますか。 有り得ませんよ」
「わかってるよ」


「わかったなら、眠りなさい」


 深夜だった。ガイは眠っていない。明日にはイェソドールを発ち、タタル渓谷へ急いで行かねばならない。 ナタリアとアニスとも話す事が増えてしまった。早急に追いつくべきだった。

 ティアが譜歌を詠い、眠ったのだが。実はそのすぐ後に起きてしまったのだ。自分でも時間がそう経っていないのが わかっていた。だが。

「………眠りたい…」
「だったら眠りなさい。貴方は眠れないのではなく、眠らないんですよ」
「違う」

 そうだった。確かにそうだった。眠らなかった。彼が居ない日々を跡切れさせたくなかったから。だけど。




「…眠り、たい……」




 闇にだけ言うように、ガイが呟く。

 ジェイドは短い溜息を吐き、その宿の一室から出た。中に残されたガイは、外の満ち切らない月を 眺めていた。…まるで取り憑かれているようだ。


「…大佐」
「ティア… 貴方も眠りなさい」

 心配で寝にくいんですとティアは言う。ジェイドがそれに困った顔をした。

「…貴方には言っておきますかね。ナタリアから貰った手紙ですが、ルークが生きているかもしれない、と 書いてありました」
「……それ、は…」
「ロルカのリーダーとして、などとは書いてありませんでした。
 ですが、フードで顔を隠していた、と」
「そうですか…」

 喜びきれなかった。
 それだけの情報では、余計に、ロルカのリーダーがルークではないのか、そう強く思ってしまう。


 ロルカは、元モース派陣営である、とは言うが、実際にやっている事は完全に武闘派である。 特にマルクトへの襲撃は酷く、ピオニーを狙ってメイドや騎士として進入する者までいる。しかも その全てがリーダーに対し強い忠誠心を持っており、仲間意識も強い。つまり、どんな状況に 置かれても、自分たちの事を話す事はなかったのだ。

 ガイとジェイドも標的にされていた。スコアの無い世界にした人々だからではなく、モースに反したから、という 何とも子供染みた、こじつけのような理由だった。


「………そんなに、…信じたいのですか」


 夜の必然的な沈黙を、ジェイドが破った。ティアは意味がわからずにいると、更に続ける。


「ナタリアが教えて来た事だって、ルークじゃないかもしれない。ロルカのリーダーだってルークじゃない 可能性も高い。…なのに、信じていたいんですか。どんな希望だって信じたいんですか」


 きっと今が夜でなかったら、叫んでいるんじゃあないか。いくら、彼でも。


 ティアはその言葉に、すぐには答えられなかった。
 だが答えた。はっきりと、その意志を伝える為に。




「信じたいです」




 彼を全身で愛した彼女。
 彼を全身で包んだ彼。


「…大佐は、どうですか?」
「……………」


 貴方は、彼に、何を出来ましたか。

 そう聞かれたようだ。




「……もし、本当に、ロルカのリーダーだったら。大佐が、メテオでも降らせて、そして、根性叩き直してあげて 下さい」
「…………」
「…私、援護しますから」






 願いを叶える星など、呼べない。

 ジェイドはそう叫びたくて仕方なかった。
 だが違う言葉に置き換えた。

 また自分は振りをすることになる。
 信じる振りだ。




「…わかりました」


 どうにか出した言葉にティアが「良かった」とだけ返事をした。





           際まで寄って落ちてしまえアンサ


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