此
処
で
生
き
る
貴
方
の
為
に
赤い何かを見る度に彼を思い出してしまうのは、皆も同じだった。夕陽が見れない。赤い花も 好めない。自分の中にあかい血が流れていると考えると、世界の皆に彼が散在しているようだ。 それはとても考えると残酷だが、彼は此処に居る。そう考えると、まだ救われる。 いつの間にかティアに眠らされていたのだ。船室でふと何かを思っていたら、後ろから譜歌を詠われた。 多分ジェイドの差し金だ。眠れる時に眠らせてしまえと。気を張っていなかったからさっさと意識は無くなった。 意識を取り戻した。 いつもより少し視線が高い。 「…ん?」 「おや、起きましたか、ガイ」 「……あれ、ジェイド」 「起きたなら降りて下さい。貴方のようなのを背負っていると足腰が…」 「…え?あれ?」 眠るのは構いませんが、起こすのは可哀想だとティアが言ってきかないものですから。そう言ったジェイド。 引きずって行く、コンタミネーション現象を利用するなんぞとほざいていた彼であったが、結局ティアに押し切られ、 ガイを背負うはめとなっていた。 わざと「あ〜どっこいしょ」などと言いながらガイを降ろすと、ガイは少し、どころかかなり驚いた顔で 「……ありがとう」と。 「久々に筋トレしてしまいましたよ」 「起こしてくれて構わなかったのに」 「いえいえ、冬眠して欲しいぐらいですからねぇ」 ガイの睡眠はとても貴重なんだとか言う。ティアの言葉だからか、彼は含んだ言い方をした。それにガイが 何が貴重だ、と零す。それにしても眠っていたからか頭がはっきりしない。 ガイはユリアシティが好きだった。勿論音機関の事もあるが、それよりも、クリフォトにあった時と 比べ、外殻が降下してからのユリアシティだ。赤黒い背景は澄んだ青に変わり、荘厳で美しい外観になった。 きっとこれが本当の姿なのだ。そう思ったら、ユリアシティがたいそう愛しいものになってしまった。 「ティアは?」 「テオドーロさんに会いに。戻ってきたらすぐに発ちますよ」 どうやら反対側の船着き場に向かっていたようだった。体を反らせて伸ばすとあくびが出てくる。 譜歌の効果がまだ残っているのか。だったらこのまま、次の朝まで眠ってしまいたかった。だけど それが終わればまた眠らない夜。…ああ、これ以上何に沈めと言うんだ。 そんな事を考えていたら酷い表情になっていたらしく、ジェイドがそれについて尋ねて来た。 別になんでもない、とは言うが。赤い瞳の彼がそれで納得する筈もない。 「最近はティアが眠らせてくれるから平気だよ」 …平気なものか。 眠っているというのに、嫌味にも夢なんか見ない。…見ても覚えていない。 一年間も、 あいつが生きた形跡が無い。 それがこんなに恐ろしい事、 とは。 彼はホドが見渡せる場所に居た。 彼はタタル渓谷に居た。昼間の渓谷からはホドが良く見える。誰も居ない、誰も居る筈もない。見えたのは 緑色の淡い光だけだ。あれは前にも見た。セフィロトの光に似ていた。 来る途中でたくさんのレプリカを見た。虐げられているレプリカ。売り払われるレプリカ。 殺されるレプリカ。殺されるレプリカ。殺されるレプリカ。そんなものばかりだった。イェソドールが 近いせいで、そこから暗に牽かれていくレプリカがいる。そのせいだった。 何もわからない悲しいレプリカ。 何処にも帰れない悲しいレプリカ。 意志すら無いに等しい、 悲しい、 レプリカ。 食料も水も無くなったが、彼は至って平生のままだった。自分はレプリカだが、人間でありたいという 気持ちは一番大きいと思っている。世界の全てが理解できる。帰る場所もある。意志もある。悲しくはない。 彼はおもむろにフードを取った。ホドをしっかりと目に焼き付けたかったから。 不意に、風が強くなる。 青い空の地上付近に、鮮やかな赤が飾られた。 それで彼は満足したのか、またフードを被り、自分を隠す。ここに来るまでにたくさんのレプリカや人と 会ったが、その全てと彼は話さなかった。 誰にも自分を見せなかった。彼はタタル渓谷を後にした。 彼はホドに背を向けた。 |