彼
を
包
ん
だ
貴
方
の
為
に
昨日も明日もこの先もずっと繋がるものだと思っていたのに、昨日が跡切れた。 多分今日は彼は眠れない。昨日の昨日をぶつりと切ってしまったのだから、その罪の意識に苛まれて。 そんなの彼の罪じゃないのに。そんなの彼が負う事じゃないのに。でもこれを言ったって、きっと彼は 聞かない。…言う人が違うから。 彼はレプリカの街に居た。 彼はイェソドールに居た。砂漠に近い気候にも関わらず、上から下まで完全防備の 服。フードを被り、顔を隠しているようだった。ゆっくりと人混みの中を歩いていく。 イェソドールは人こそ多いが、静かで閑静な街だ。レプリカは総じて無口で、感情表現も 乏しいからだ。だが人としての感情自体はある。優しさもあり、怒る気持ちもちゃんとあった。 彼はそれをちゃんと知っていた。 否、それが当たり前だと思っている。 何故なら自分もそうだから。 ここにいる寂しいレプリカたちをレプリカとして認めなければ、自分も人間でもレプリカでも無くなってしまう。 それは断固として回避したかった。 …人間でありたい。生きたい、と思うよりも、人間でありたかった。 彼はここで食料と水を買った。 金が足りなかったが、「足りないなら今度でいい」というレプリカの女性の 好意に甘えた。 やっぱりレプリカは人だ。それが嬉しかった。 そして彼はイェソドールを出た。一言の口も誰とも聞かないまま、そのフードを取らないまま、イェソドールを発った。 最低限の食料と水だけを持ち、ホドが見えるあの場所へ行った。 彼はレプリカの街を出た。 港に着くなりさっさと船に乗るはめとなり、あと数時間でユリアシティに着くと言う。 アルビオールで飛び回っていた頃と比べると長い旅路に、更に昔の事を思い出した。 彼はタルタロスを思い出していた。その名の通り冥府となったあの船を。 今考えればあの時からこんな風に流れて行くとはねぇ、と呟いたのはジェイド。 今思えばジェイドはルークと会ったからこそ、こんな状況に陥っているのではないか。それが 嫌だとは微塵も思ったりしないが、それでも自分の人生に置ける数年を、ルークを 作ったあの男に動かされた、と考えると。 「…感謝、しなければいけませんかね。 ヴァン」 栄光の大地に向かって言った。海が広がっている。だがこの方向なら、あのホドへ向かって消えるだろう。 それでよかった。面と向かって言う気などないし、だが。 「……その後は憎ませてもらいますがね」 いつもの笑みなどは海に捨てた。 |