泣
け
も
し
な
い
貴
方
思えばあれは虚勢だったのです。 行って欲しくないのに、親友という薄っぺらい肩書きを大事にしていた彼だからこそ、ああ言うしか 無かったのでしょう。もう、親友なんて呼べない程、でしたのに。お互いに大切に思い合っていたのでしょうに。 それは確かに愛とか、そういうものに発展するものではありませんが、それでも、お互いに、大切に。 痛い程叫んでいたのに、それを、虚勢の笑みで包み込んでいたのです。 砂漠の夜は冷える。昔もそう思ったものだが、このような涼しさは嫌いではない。 昼間は暑いのに、夜は静かに冷える。そういった逆転の場である砂漠が、ナタリアは好きだった。 ゆっくりと歩みを進めていく。砂漠では夕方に休み、朝に歩く。時計は午前4時。9時まで歩きましょう、と アニスに言うと。 「なんで船じゃないのー?プリンセスナタリア号乗りたいー!」 「仕方ありませんわ、ジェイドたちの方がユリアシティ、イェソドールと経由するんですもの。船で行ったら、 誕生日どころじゃなく早く着きすぎてしまいますわ」 本当はナタリアもアニスも、イェソドールを回りたいのだが。 「それでも早く着くよね?」 「ええ、多分。あちらは最初も船旅でしたようですし」 「じゃあさ、もちょっと急いでイェソドール行かない?そこで大佐たちを待とうよ」 「いい考えですわ。宿にいればきっと会えるでしょうし」 イェソドールへ行きたい理由としては、やはりロルカの事もある。大衆が、レプリカの街は 襲われない、となると、レプリカがやっているのではないか。そう考え出したのだ。しかし、ロルカは 自分たちからモース派陣営を名乗った。レプリカが混ざっていたとしても、多い数ではないのは確かなのに。 「そういえばロルカ、ってどういう意味なんだろ?イスパニア語でもないよね」 「何か、『世界を守るもの』という意味の言葉をもじったものらしいですわ」 ナタリアが苦虫を噛み潰したように言う。 何が世界を守るものか。 本当に守った人を知っているのか。 本当に守った人が貴方たちを見て、何を思うと思っているのですか。 本当に世界を守った彼が貴方たちを見て。 許すと思っているのですか。 否。 …きっと絶対にやめさせるでしょうけど、 許さない事はないでしょう。きっと全てを許すでしょう。 …ならば私たちもそうありましょう。 「…アニス。彼らは、絶対に止めましょう。私たちで」 「もっちろん。腕が鳴るね〜」 静かにあの時の決意を思い出す。 それはまたアニスも同じく。 砂漠の街は近い。砂を踏むたびに、居心地の悪い音が鳴る。 「…悪いな、ティア」 「そう思うなら自重して頂戴」 うーん、とガイがばつの悪い声を出すと、ティアはまた呆れた表情になった。 先ほどの魔物との戦闘だった。ガイなら簡単に斬り伏せるであろう程の魔物だったのだが、 攻撃を受けきれず、腕に怪我を負ってしまったわけだ。それも一瞬の隙をガイが見せたからと、 日頃の睡眠不足からのせいか、攻撃を押し返せなかったせいでもある。 しかも、怒っているのはティアではなく、ジェイドだった。 最初からガイの同行を渋っていたジェイドだ。 最初からこういった事が起こるのではと思っていたのはジェイドだ。 ガイが怪我をしたその時、一番近くにいたのはジェイド。 ガイを援護に回らせて詠唱をしていたのがジェイド。 ふう、と大きな溜息を吐いたのもジェイド。 それにティアが「溜息を吐きたいのはこっちです」と呟くと、ガイの方がすまない、と言う。 貴方じゃないのにと思う事は思うが、怪我をした者が悪いわけで。 「終わったわ」 「ああ、ありがとう」 立ち上がってジェイドに向かい、迷惑をかけた、と少し笑ってみせると。 「……すみません、ガイ」 「なんだ、珍しいな?旦那」 「次から中衛に下がって下さい。私も中衛に入りましょう」 「それじゃあ、後衛のティアが無防備になるぞ」 「貴方よりマシですよ」 「う…」 ガイがティアに視線を向けるが、ティアはティアで「大佐の言う通りになさい」と言うだけだ。 それに不満げな顔を見せると、ここぞとばかりにジェイドが突く。 「いやァ眠って下さればそれでいいんですがねぇ」 「しつこいぞ!」 実は昨日は、眠ってしまった。ずっと考えているのが嫌だったから。本当にあいつが世界を 憎んでしまったのならどうしようって。怖かったからだ。 「どうせ要らない事を考えていたんでしょう」 この眼鏡にはどうしても隠し事などできないが。 「何も考えていないよ」 何も考えていないから何にも傷などついていないし何にも浸かっていないし 何にも囚われてなどいない。 思えばいつだって虚勢だったのです。 跡切れるのが怖かったのでしょう。だから、 |