走るのも歩くのも問題は無いと言ってはいたが、それでもローレライは歩くのがほんの少し遅めだった。 左利きだから右腕に関しては何も気づくことは無いのだが、それでも彼が右手を使って何か することはほとんど無い。だが最近は仕事をするようになり、 暇な時はヴァンの後ろを付いて行ったりしている。勿論ヴァンはそれを非常に迷惑に思っている訳だが。 「ピオニーがルークに付きっきりだからね、彼の他の仕事を私に回してくれたんだ。お陰でルークには会えないし、 散々だよ」 「…誰かが途中放棄したお陰で、ピオニー殿の手を煩わせているのではないか?」 「私が途中放棄したんじゃなくて、ルークが逃げたんだよ」 「そのことを言っている」 「……ルークの事が嫌いなのかい?」 「少しな」 ついでに、その種である貴方の事も。ヴァンはそう言いかけてやめておいた。 この男のせいで早く歩きたいのにゆっくりでしか歩けないし、すこぶる良い迷惑なのだが。 「追い出せばいいのにね」 心を読まれた。ローレライは何故か読心が出来るらしく、抜けた印象の割には勘の良い男である。 「…さっさと追い出されてくれ」 「御免被るね。行く所はないし」 またどこでそんな『御免被る』などという言葉を覚えたのか、とうっすらヴァンが思いかけた所、 間髪入れずにまたローレライが話す。 「迎えに来てくれただろう」 しまった。本音だったが、ついでだったのだ。ピオニーに用があったからだ。決して最近は雨が多くて 湿気で足が痛いって昨日ローレライが言ってたからじゃないし、今朝はバケツをひっくり返したような雨だったし、 そのくせ傘を持たないで出かけるし、 ―報われないのは今現在、晴天なところである。 「傘を持っていかなければ、きっと来るだろうなあと思ったんだよ」 この男はとりあえずあと2・3回は花畑または河を見ると良いのではないだろうか。 「そういえば君の誕生日っていつなんだい?」 どんな『そういえば』だ。これもつっこみたかったが敢えて面倒を選ぶ気にはなれない。 「…まだまだ先だ。それまで居座るつもりか」 「是非そうしたいね。なあ、何が欲しい?」 「……別に何も」 後数十メートルで家に着くが、心配なのは雨だった。また薄暗くなってきた。 雨が降ると痛い痛いとこの男が煩いから。 「張り合いがないなあ。何か無いのかい?そうだな、たとえば」 こいつの誕生日には折りたたみ傘でも買ってやろう。そんな事を思ったら、ローレライの声が雨音に掻き消された。 次に聞こえたのは「あーあ」という落胆の声。言いたいのはこっちだ。 「やっぱり傘、持ってた方が良かったかな?だけどどうせ、君は何も望まないんだろうね」 |