否応無しに続く日々、時は晴天、先へ伸びるは 理解なき和解の日々

 ヴァンの悪い所と言えば、ローレライが家に住み着いていて、それが迷惑だからと言って、 彼を追い出さない所だった。ローレライはそれにつけ込んでいる訳ではないが、それに近い形で ヴァンの家に住み着いている。息子の下へ行く気はさらさら無いようだった。
「私はルークに嫌われてるから」
「…ルークがモダンをやめたのは、貴方のせいか」
「酷い言いようだな。事実だけを言えばそうだけど。でも私は一応ルークの師匠なんだよ。なんだって 君を師匠って呼ぶのかな」
 父と呼ばれることよりも、そちらの方が遺憾らしい。
「どこ行くんだい?」
「買い物だが…代わりに行ってくれるのか」
「バナナかってきて」
「………」
 この無駄飯食らいが、と叫びたいのはやまやまだが、もし実際仕事をさせれば、自分より儲かる事請け合いだ。 彼にはバレエを踊る才があるのではなく、バレエの才がある。名は覚えていないが、現在名を世界に馳せている モダンバレエの天才―確か背の高い金髪の。ローレライはその彼の師でもある。
 働けと言ってもし働けば、自分より稼いでくる。なんだかそれが癪だったので、 ヴァンは毎回オールシュガースポットバナナをくれてやるのだった。(しかしそれでも奴は食べるのだが)
「今日の夕飯は?」
「誰かが肉を食べるなら焼肉にしてやるんだがな」
「別にすればいいって言ってるのに」
 ローレライは全く肉と魚を食べないので、必然的に野菜ばかりを買うはめとなる。しかし卵は食べるので、 連チャンでたまご丼。
「ヴァンデスデルカは優しいな」
 どうせ今日も律儀にバナナと、卵を大量に買ってくるんだろう。ヴァンの悪い所といえばその生真面目な 所で、いくら邪魔者であろうと、目の前で餓死されるのは勘弁だろう。
 ローレライの悪い所といえば勿論、悪意が無い所であった。
「明日はピオニーの所に行ってくる」
「………」
「心配しなくても道に迷ったりしないよ。そこまで馬鹿じゃないさ」
「誰もそんな心配はしていない」
「ん?…ああ、じゃあ足のことかい?大丈夫さ、歩くのにも走るのにも支障はない」
 ただ、踊ることにかけては、最低の足だがね。
 ヴァンの悪い所を更にあげるなら、律儀な所だ。そう言われて心配しないやつがあるか。そんな内心、 心配しているということを見抜かれている事実には気づかない。
 しかし勿論だが、共通した悪い所もある。生憎と、共通して気づいていない事なのだが。



シェル・クラウン Chapter.02 「愛を知らない子」


title/星屑の海。