ココア・クラウン Chapter.01 「not プラトニックラブ」
手のひらに触れる真綿の国々

 ルークの代わりでもいい。

 プライドの高い彼が言った言葉、最初は理解が出来なかったわ。数秒して意味がわかっても、 そんな気になる筈なんてない。今さっきその「ルーク」と別れて来たっていうのに、同じ顔を見ていたくもないのに。 そう思ったのがわかったのか知らないけど、私の前に出て先を歩くのは、私に顔を見られたくないからかしら?
「どうしてそういう事を言うの」
「……さあな」
「私のことが好きなの? …ああ、わかったわもう言わないから、睨まないで」
 でも最初のセリフはそう言ってるようなものでしょう。アッシュはまた振り戻って私の前を歩く。夕焼けのせいで 彼の全部が真っ赤。耳まで赤くなってるのを知ってるわ。
 だけど私は嫌な女。相手は人形よ、でも私はそれじゃ嫌だった。私はクールで普通の女とはちょっと 違う、そんな風になっていたかったのに、結局は私はただの女。バレエと私とどっちが大事なの、言葉に するのは流石にしなかったけど、そう込めながら別れて来てしまった。
「じゃあ、少しぐらいは良いな、とでも思っていたの?」
「かもな」
「少しだけ?」
「………………」
「ふふ、ごめんなさい」
 貴方はルークと違ってプライドがバカ高いし、気丈だし、公私混同しない良い男ね。ルークの影になる なんて絶対嫌だと思っているくせに、私の前ではルークの代わりでもいいなんて。
「…お前の歌が、好きだ」
「……歌だけ?」
「…………」
「そんな般若みたいな顔しないで。台無しよ」
 車の通らない道。そのせいで何の邪魔も入らないのが少し嫌。日が長くなったせいで今が 何時かもわからない。アッシュが時計を確認すると、「家まで送る」なんてぶっきらぼうに言う。
 ねえルーク。アッシュは私を好きなのだそうよ。貴方はそれを聞いても動じないでしょうね。そして 私をアッシュに譲るのでしょうね。貴方はもしかしたら知っていたのかしら。―嫌ね、私だって嫌な 女だけど、貴方だって十分嫌な男じゃない。
「…アッシュ、私、明日暇なの」
「…だから何だ」
「明日、公演なんでしょう?」
 こう言ったら照れてしまうかしら、と思ったけど、アッシュは頭を押さえて溜息を吐いてから、 ちゃんと私に向き直る。鞄の中をまさぐってチケットを取り出すと、今度は顔を押さえる。 そんなに照れなくて良いじゃない。私がチケットを取り上げると、また彼は私の前を歩く。 全く、隣りで歩く気は無いのかしらね?



title/星屑の海。