ルークの代わりでもいい。 プライドの高い彼が言った言葉、最初は理解が出来なかったわ。数秒して意味がわかっても、 そんな気になる筈なんてない。今さっきその「ルーク」と別れて来たっていうのに、同じ顔を見ていたくもないのに。 そう思ったのがわかったのか知らないけど、私の前に出て先を歩くのは、私に顔を見られたくないからかしら? 「どうしてそういう事を言うの」 「……さあな」 「私のことが好きなの? …ああ、わかったわもう言わないから、睨まないで」 でも最初のセリフはそう言ってるようなものでしょう。アッシュはまた振り戻って私の前を歩く。夕焼けのせいで 彼の全部が真っ赤。耳まで赤くなってるのを知ってるわ。 だけど私は嫌な女。相手は人形よ、でも私はそれじゃ嫌だった。私はクールで普通の女とはちょっと 違う、そんな風になっていたかったのに、結局は私はただの女。バレエと私とどっちが大事なの、言葉に するのは流石にしなかったけど、そう込めながら別れて来てしまった。 「じゃあ、少しぐらいは良いな、とでも思っていたの?」 「かもな」 「少しだけ?」 「………………」 「ふふ、ごめんなさい」 貴方はルークと違ってプライドがバカ高いし、気丈だし、公私混同しない良い男ね。ルークの影になる なんて絶対嫌だと思っているくせに、私の前ではルークの代わりでもいいなんて。 「…お前の歌が、好きだ」 「……歌だけ?」 「…………」 「そんな般若みたいな顔しないで。台無しよ」 車の通らない道。そのせいで何の邪魔も入らないのが少し嫌。日が長くなったせいで今が 何時かもわからない。アッシュが時計を確認すると、「家まで送る」なんてぶっきらぼうに言う。 ねえルーク。アッシュは私を好きなのだそうよ。貴方はそれを聞いても動じないでしょうね。そして 私をアッシュに譲るのでしょうね。貴方はもしかしたら知っていたのかしら。―嫌ね、私だって嫌な 女だけど、貴方だって十分嫌な男じゃない。 「…アッシュ、私、明日暇なの」 「…だから何だ」 「明日、公演なんでしょう?」 こう言ったら照れてしまうかしら、と思ったけど、アッシュは頭を押さえて溜息を吐いてから、 ちゃんと私に向き直る。鞄の中をまさぐってチケットを取り出すと、今度は顔を押さえる。 そんなに照れなくて良いじゃない。私がチケットを取り上げると、また彼は私の前を歩く。 全く、隣りで歩く気は無いのかしらね? |