いくら瞬きをしても捉えるのはあなたの姿ばかり瞼のうらに焼きついて脳内で点滅・明滅・頭おかしくなりそうね

ミルク・クラウン Chapter.10 「となりの楽園」

「…俺はあなたが、すきなんですよ、ほんとは」
 へなりと笑ってみせると、ピオニーの端整な顔は驚きに転じたが、すぐにいつものやんちゃな笑顔に戻ってゆく。
「自慢だが、俺をキライな奴はなかなか居ない」
 低い位置にいるルークの胸元を掴んで力のままに引き上げてキス。意味わかってるという意志表示。必死で動揺を隠してクールなフリをしてみせても 「なんだもっと欲しいか?」なんて言ってバカにしやがって、なんか嬉しいのにフツーに腹が立つ、のは、なんでだ。
「オイおっさん」
「誰のことだ!」
「かがんでよ」
「俺のことか!」
「目閉じて」
「お前からすんの?」
 おっさん発言などさらりと忘れたピオニーが跪いて目を閉じた。瞼を閉じる瞬間、睫毛の動きがスローモーションに見えた。 閉じてそのあとも、俺の姿は残ってるかな、ストップモーションの俺の姿が、黒の世界にちかちかと。

「……できねぇの?」
 少し待たされたピオニーが片目を開いて唇を尖らせた、食いついてくださいって言ってんのか。 幼児のような表現は逆に呆れる方だけど、愛嬌はやっぱり感じてしまう。
「おっさんに見惚れてたんです」

 フリ、動揺、本心、結局のところ本心からこのおっさんを引っ掻き回してやりたかった事だらけだった。スローモーションにした 瞼の裏の映像。そういう愛すべきものを前にしたら、どれも意味がねーな。キスの唇を手で掴んでやると、抗議の視線を 向けてきた、ので、離してやると、
「…憧れが恋にすり替わったんだわ、俺も、おまえも」
 それはまるでただの大人らしいセリフだった。
「ロマンないこと言う…」
「ああ、ロマンは大切だな…じゃあこうしよう、ハジメテオマエヲミタトキカラスキデシタ」
「……つーか突き詰めてみりゃそうでしょうよ…恋とかいう前に憧れって好意じゃないすか」
「……………じゃー恋が憧れにすり替わってたんだわ、今までずっと」




title/群青三メートル手前