ミルク・クラウン Chapter.06 「死にたくなるような朝」

 もちろんルークを毎日襲ったのは筋肉痛だった。今でさえも完璧に踊りこなせるモダンだが、 今までやっていたジャズとは全く違う部分ばかりを動かすはめとなる。そのお陰でエアサロンパスの臭いが 充満する。窒息して死ねるような朝になった。
 それを思うとなにやら不思議な気分になる。自分は20歳だけど、あのおっさんは39だ。ほとんど四十路の 男が、息も切らさず軽く、また力強く舞う。仕方がないので腹筋と腕立てを増やす事にした。
 お陰で体重が増えた。脂肪が筋肉になってくれたお陰か知らないけど。散々ガイにはったり筋肉と言われたが、 これならもうはったりじゃない…とは思うけど。実際微妙だ、見た目は変わってないんだし。
 明日も朝は気分が悪いのだろうな。朝はいつだって死にたくなるような朝。 誰も居なけりゃ、そんな思考にも辿り着く。あのおっさんと居る時は、そんな思考に届く筈もないのに。

 結局の所、俺が何を言いたいのかと言うと。
 思ったよりも、侵食が激しいという事くらいだ。

「6980円になります」
 うっ、とルークが声を上げ、財布の中を見て動きが止まる。店員はお構いなしに6980円のDVD を袋に入れ、テープで留める。あ、もうこれは逃げられない。仕方なしに10000円と80円を出した。
「お前相変わらず金欠なのかよ」
「誰かさんのせいでね」
「ん?俺か?ギャラは弾んでるだろうが」
 今買ったDVD、誰が出てると思ってんだ。恨めしく思いつつおつりを受け取ると、財布はやはり栄養失調。 どうせまた徹夜になるだろう。日がな一日、魅せられっぱなし。息苦しい朝と眠りたい朝、あーあ、明日なんて こなけりゃいいのにな。
「どーせもう金ないんだろ。メシくらいおごってやるぞ」
「一回二回おごってもらったってそう変わんないですよ…」
「じゃこれから一緒に帰れる時はおごってやるから」
「金持ちのできることっすねぇー… でも助かります」

 よし、毎日デートだ。こりゃ毎日の明日の朝、死ねないな。

ふっと過ぎってしまったその思いが、侵食は偉く重度である事を自覚させた。


title/渦旋

落ちた一滴がもたらす波紋はやがて大波 青い薄っぺらい空に 似たような形の雲が浮かぶ、あなたの眼の色の中に