ミルク・クラウン Chapter.04 「あの日も綺麗に晴れていた」

『モダンはじめました』
 冷やし中華はじめました。そんなノリで双子の兄に報告、心配のメールを送ってくるガイと元カノに。 案の定、兄からは電話がかかってくるし、ガイと元カノは二人してジェイドに密告した。だが嬉しいことに ジェイドは何も言って来なかった。

 練習場は流石にミュージカルの練習をするようなお座なりな場所ではない。昔のところは音が 漏れて大変だったけど、ここは防音。たったそれだけのことだが、―つまりあまり変化はないのだが。ひとつ 違うことと言えば、今は朝の8時で(つくづくルークは自分を呪った。DVDを観てたせいだ)、受付のお姉さんも いないような朝、なのに床の上で跳ねる音がする。音を立てないようにドアを引くと、中にはひとりの 熱情的な男(に扮した、ピオニー)が居た。
「  お、ルークか」
「…ホセ、ですか」
「ん、よくわかったな。カルメンいないのに」
 『カルメン』は、美しき女性カルメンに恋をしてしまうホセを情熱的に舞う。人形をカルメンに仕立てて その周りを踊るが、そこには人形のカルメンすら居ない。
「わかりますよ、それくらい。踊ったこと、あります」
「何歳で?」
「…15」
「はっ、天才だな。15でホセを演じるか」
 しかし15、つまり5年前は、ルークがモダンを断った年だった。カルメンも嫌いだった。付き合っていた彼女 と別れた理由も、カルメンだった。(―人形相手にあんな顔をするなんて信じられない、とか言われた。だって ホセってそういうものだ)
「ガキのホセなんか、バカみたいなもんです。俺、タッパないし」
「確かにちっちぇーよな。171センチだっけ?まあお前の兄貴もだけど」
「あんたがでかいんです」
「こんなもんだろう。牛乳飲め牛乳」
 牛乳飲んで大きくなるならとっくになってる。ならなかったから牛乳は嫌いなんだ、そうルークは決めつけていたが、 ルーク自身牛乳が嫌いなだけ。カルシウム摂って背が伸びるというのはどうにか覆らないものか。 言葉の後にもう一度ピオニーが舞うと、そこに居るのはピオニーではなく、ただ恋に堕ちた哀れなホセ。
「…お前のホセを見たかったな。きっとエロくさい」
「それ、褒めてるんすか」
「ああ」
 カルメンに恋するあんたより、ホセの合間にかける言葉の方が、よほどにエロくさく聞こえた。

『カルメンおどりました』
 冷やし中華はじめました。そんなノリで双子の兄に報告、まだ心配のメールを送ってくるガイと元カノに。 案の定、兄からは電話がかかってくるし、ガイと元カノは二人して「おどれたのか」というような内容が 返ってきた。ジェイドは「ガイに踊って欲しいものです」なんぞと来た。いや、俺、お前にゃ言ってないんだけど?


言いがかりをつけたのは自分自身


title/渦旋
ルーク君はピオニーにカルメン役をやってもらい、ご期待に沿ってえろいホセを演じたところ、ピオニーのハートを見事射止めましたとさ。