あとちょっとだけ長く其処に居て欲しいそれだけだった、それを被った貴方は此の世の何よりもすてきだろう

ミルク・クラウン Chapter.02 「きっと、大切な日になる」

「ルーク!来てくれたか!」
 あーあ、とルークは心の中で嫌になった。結局少し高めの煙草を買ってしまったし、おにぎりだって二つでいいのに 三つ買った。どうしてこうも無駄遣いが多いかな。昼飯は朝買ったおにぎりの残り一個だ。目の前の 金髪の人物が何かとても喜んでいるようだが、昼飯が足りないのが問題だ。
「来ないと言ったから、心配だった。もう間に合わせは御免だ」
「…いや俺だって来る気はありませんでしたけど」
「なんだよ、だけど来てくれたじゃないか」
「知らんうちに除籍されちまった。あんたのせいです」
 知らんうちイコール、結局ルークが電話したのだが。それは彼の左手と右手が勝手に走った結果らしく、 つまりルークにとっては「知らないうち」。くそ、ガイにももう一方にも「お前みたいな跳ねっ返りを雇う とこなんてないぞ」って言われた。いるよ、目の前に。意味わからないけど。
「今は9時かー… オーディションは3時からなんだが」
「…じゃそれまでどっかで時間潰します」
 今は朝の9時でオーディションは昼の3時?有り得ない。だったらあんな朝っぱらから電話してくるな、 大体こっちはあんたのせいで寝てないんだ。昨日の夜中から今日の今の今まで、あんたのせいでずっと 起きてる。どこかで寝れないかな。ていうか家に帰ろう。そんで寝よう。ていうかさっきからこの人と喋ってる せいだと思うけど、受付のお姉さんとか、練習に来たっぽい人たちが俺を見るんですけど。
「ダメだ。それはダメだ」
「はぁ?」
「よし、じゃあカラオケでもいくか」
「……ハ?」
「今だったらコートダのフリータイムで1800…なんだ、金がないか?おごるよそれくらい」
 いや そうじゃ なくて。
 何が面白くてこんな俺とあんたがカラオケ?ていうかカラオケじゃ寝れる訳ないじゃん。帰りたい帰らせてくれ。 ルークの必死の熟考はもちろん届く筈もないが、受付のお姉さんの顔は「ごめんね、諦めて」と言っている。 常習?
「いやっ、そうじゃなくて。なんでカラオケなんすか」
「別にカラオケでなくてもいい。お前を俺の目の届くところに置いておきたいんだ」
「…なんだってか?」
「すっぽかされちゃ、たまらんからな」
 確かに今寝たら昼の3時なんて通り過ごしそうだ。元から今日ある練習は夕方からだったこともあり、 電話さえなければコンビニへ行った後に一度寝ようと思っていた。電話さえなければ。まだこの男のせいで ルークの目はあきっぱなしだ。大体ルークは歌うのは嫌いだ。カラオケなど数年行った事がない。 そう思って小さいカバンの中のおにぎりが一つある事を思い出した。
「…カラオケはいいんで、メシおごってくれませんか」
 ルークが渋々それだけ告げると、ピオニーは逆に、嬉しそうににかっと笑い、「いいぞ!」と ルークの肩を叩いた。「じゃあそばでも食うかー」と言いつつ歩く彼の後ろ姿を見、舞台で踊る ピオニーの足の動きを思い出す。後ろから見ても、優雅に歩く人だった。




title/渦旋