一 此あれば彼あり 「伯爵さま、陛下をお見かけになりませんでしたか」 「ガルディオス殿、ピオニー陛下は何処に」 「ガーイ。陛下を知りませんか」 さっきから同じ質問に同じ答えをガイは返していた。なのでジェイドが 話しかけて来たのは初めてだったが、「知らないって言ってるだろう」とげんなりとした 声で喋った。 「大体なんでみんな俺に聞くんだ?俺は陛下の世話係じゃないぞ」 「愛人でしたっけね」 「……………」 「そんな蛇を見るような目で見ないでくださいよ〜」 ジェイドのからかいも慣れたものだったが、恋人より「愛人」の響きは余計淫猥だった。 「貴方がいるところに陛下がいるかと思ったのですがね」 二 此なければ彼なし 「三つ子だ!」 「…はぁ」 「なのでティアとアニスは決定なんだが…もう一匹はどうしようか、非常に迷っている」 ジェイド(ブウサギ)とルーク(ブウサギ)の次の子供は三つ子だった。すでにガイラルディア、 アッシュ、ナタリアは居る、となると女性二人が残るが、最後の一匹。ピオニーはまるで自分の子供のように そのブウサギたちを愛でるが、ジェイドとしては最後の一匹は食べてしまえばいいんじゃないかと 思っているらしい。言おうとも思ったらしいが、赤ん坊は食べても不味いだろう、そう思ってやめておいた。 「……マリィとかはどうなんです?」 「あ、そっか、マリィベルがあったか。よし決定だ」 お前の名前はマリィベルだぞ、と小さいブウサギを持ち上げた。多分明日このブウサギが全部いなくなってたら、 彼は子供を亡くした親のように悲しむのだろうな。 三 此生ずれば彼生じ 「わさびです」 「生姜だ」 二人はまさに自分が正しいと言っているようだが、 豆腐(冷や奴)に乗せるものに対し、そこまで熱くならなくとも、というやつだ。 「わさびとか信じられないぞ。普通生姜だろう」 「いいえわさびです。大体貴方だって生姜かけてぽん酢だなんて邪道ですよ」 「食った事ない奴のセリフだな。醤油の時代は終わったんだよ」 ジェイドは尚もくってかかるが、勿論ピオニーにも負ける気はない。そのうちにガイが やってきたが、二人はそれに気づかず、戦闘は白熱していった。 「表に出ろ!決着をつけてやる!」 「上等です。消し炭にしてさしあげますよ」 「ま!待った!待てって!」 「おおガイラルディアいいところに!生姜だろ?」 「勿論わさびですよね」 「あんたら俺が豆腐嫌いだってわかって言ってるだろ!?」 四 此滅すれば彼滅す 「この前寝て起きたら、一刻も早く死ななきゃって思っていた」 「…頭がおかしくなったんですか」 「多分そうだろうな。数秒経っていやダメだろって自分で突っ込んだ」 「死んで貰っては困りますよ。葬式とかめんどいですし」 「まあな。…お前は生まれ変わりを信じてないんだったかな」 「そうですけど?」 「信じろよ」 「無理ですね」 「信じろよ。お前が信じたら現実になる気がするから」 |