彼女に、祝福を。 そう聞いた時、背中に何かが趨っていった。そう言って死んでしまった彼。 これから先、彼が皆の記憶にずっと居ない。世界に居たという記録は残っても。 これから先は、もう居ない。 『 アスラン・フリングス 』 そう書かれた、死を完全とさせる石を見る度、ガイは胃が痛い思いをした。いや、思いだけで、 実際に痛くはない。だが、確実に何か、体の中心に何か。火傷のようなものを負った気分になるのだ。 アスランは良い奴だ。 あいつに好きになられた女は幸せだろうなぁ。 ピオニーが言っていた。フリングスとセシルとの事を零した時のことだ。その時はこっちは困ってるんだけどなぁと言った 意味の事を言っておいたが。 一体どうして彼が軍属に居るのか、それが気になっても居た。強い闘志を持ち、また、強くきれいな心を持っていた。 あれだけ強く人を愛するも、強く人に立ち向かい、敵になってしまった人を殺す。…そうだ、敵になってしまった人。 もし、普通に知り合う事が出来たなら、と考えると、戦争は恐ろしい。その一番前に立っていた人。 毅然と立っていたあの人。それでも死んでしまった。居なくなってしまった。 怖い。人が死ぬのはやっぱり怖い。 それが自分に近い程怖い。 自分が死ぬのが一番怖い、と思っていたけれど、怖かった。別に、彼を好きであった訳ではない。 彼を特別に思っていた訳でもない。だけど、彼が居ないこの先を想像するだけで、怖くて、悲しかった。 死ぬ事よりも、居ないこの先が、悲しかった。怖かった。だから人は墓石を作って死んだときの事だけを 考えるようにする。 彼女に祝福を。そう言った最期の言葉が離れない。たくさんの人を殺し、たくさんの人に憎まれている であろう彼が。最期の言葉が、最愛の人への言葉なんて。 それを思い起こす度に、ルークは腹が破裂しそうな思いをした。勿論思いだけで、 痛みなんかないし、だが、確実に何か。体の中心に何か。体全部が焼けるような、そんな気分になってしまう。 墓石を見る度に、どうして彼が。どうして彼が、とばかりだ。でも、涙は出ない。 じゃあどうして自分は生きているんだろう。あんなに純粋に人を愛して、愛せる人が、死んでしまって。 どうして自分は生きているんだろう。おめおめと生き残って、いきぐるしいこの世界を。自分の命と 引き換えに出来ないのか、思う事は何度もあった。 怖いのは生きていく事だ。やっぱりどうしたって怖い。 土に還って、彼の体を苗床にして、綺麗な花が咲けば良い。 そうなれば誰だって彼を許す。 人を愛したまま死んだ彼を、誰も責めはしまい。 |