焔に懐かしい暖かみを感じながらも、 何も無い、 その無音へも尾が引かれた。 道は違えど必ず繋がる筈の二人を。 ―火とは、音も無く燃えるものだったか。 「アッシュ、お願いします。ナタリアとルークを助けに行ってあげて下さい」 それを渋っているアッシュだが、ナタリアと「ルーク」だからだ。もし頼んでいるこの人―イオンが、 口だけでも「ナタリアを」と言うのなら、 (結果的にルークを助ける事となっても否助けられるのだから)躊躇せずに行っただろう。 つまり下らない意地だけが彼をつなぎ止めているのだ。 「何故俺が行かねばならん。導師の権限でも使ったらどうだ」 「間に合いません。それに、絶対に、貴方でなくてはいけません」 少年のそれとは思えない表情で、強くアッシュに言い放つ。それは流石にダアトの最高指導者といった 姿を見せてくる。 俺でなくては、 ならない、 だと? ナタリアを助けるのが? あの劣化レプリカを助ける、のが? 「………反吐が出る」 「アッシュ、」 「行けばいいんだろう!」 乱暴にドアを開けて閉め、導師の私室を後にした。イオンはその音に少し呆れつつも、アッシュの背中を 見送る。 「……ありがとう、アッシュ」 そう、貴方でなくてはならないんです。 あの人と同じ眼をした貴方でなければ。 貴方の半身であるあの人を助けるのは、貴方でなくては。 「…アッシュ、僕は― 貴方も、とても…―」 言葉の途中から外で風がざわめき、木々が音を立てて揺れていた。 柔らかい葉が踊る様子は、まるで緑の炎のような形だった。もしかしたら、あれが、とイオンは思ったが、 すぐに思考をやめた。 音も無く緑の火が燃える。 それはあまりにも、静かな。 |