『 紅翡翠の飾る由縁 』



 赤い眼、だ。  最初に思ったのはそうだった。
 俺の髪よりも赤い赤。 まるで血が浮き出ている赤。



「そうですよ」

 彼があっけらかんと答える。その態度はいつものそれと遜色が無く、逆にこちらが 少し慌ててしまった。

「譜眼を施した際に脱色作用が起こりました。だから赤いんです」
「だからって?どういう意味?」
「血の色がそのまま浮き出るんです」

 実は頭の色も抜けたんですよねえ。
そうなんだ、と適当に返しておいたが、白髪になってしまえばいいと思ったのは 心の中に秘めておく。言えば何をされるかわからない。

「赤い眼の鬼、とか言われた事がありますよ」
(それ、笑って言えるのか、アンタ。)








 好きで殺している訳ではない。
 生きる為に、自分が殺されない為に、生きる為に、生きる為に。
 じゃあ貴方はどうなんですか。何の為に殺していますか。



「仕事だからです」

 彼はあっけらかんと答える。態度だって全くいつもと同じで、逆にこちらの方が 慌ててしまう。

「戦争屋とは痛い言葉ですよねえ」
「…痛い、ですか?」
「ええ、痛いです」

 まるで心がえぐられるようですよ。
そうですか、と何の事も無く返したが、彼が本当にそれを思っているのかと言えば、全くわからない。 わからせようとしないし、…それがきっと正しいのだ。

「死ぬ時とどっちが痛いんでしょうねぇ」
(死んだ後なんか無いってわかってるくせに)








 なかなか怒りゃあしないけど、
 だからって人の怒りは受け止めないで、自分の怒りに素直じゃ駄目だろ。
 何を背負ってるんだか知らないけど、得体が知れないね、旦那。



「業ですよ」

 怒りも見せず、いつもの嘘くさい笑みの延長線で答える。それにこっちの方が ちょっと怒りを覚えてしまう。大体なんだ、業って。

「っていうとかっこいいですからね」
「…ハァ?」
「実はそんなご大層なものは背負って無いつもりです」

 そうですねぇ今背負ってるのは子供がたくさんですね。
ああそうかよ、と、もう投げやりな返事だけしておいた。そりゃこの人は 色んな罪深い事をした、のうのうと生きていられるのは一体何でなんだ。

「あぁ、思い出しました。埋めました」
(どんだけデカイ穴掘れば、埋めきれるんだろうねぇ)








 優しいのかよくわかりません。
 貴方の言う事は全部本当で真実で事実で残酷。
 それって優しいんですか。



「と〜っても優しいですよ私は」

 心底本気で思ってます、みたいな顔を貼り付けて言う。よく言えるよ。 いつもの調子なのはわかるけど、こっちのペースはいつも狂わされる。

「毎日皆さんの為に心を砕いていますよ」
「うそくさ〜い、ですよぉ〜」
「あいにくと嘘はつけない性格なんです」

 これからも人の世の為に尽くしていきますよ〜。
うそばっかり、って言っておいたけど。罪の意識なんてほとんど無いくせに、よくも 嘘でもそんな事言うなあ。自分は嘘で固めておいて、人には真実をだなんて。

「もしかしたら今言ってる事全部、嘘かもしれませんね」
(貴方が生きてる事も、嘘だったらいいとか思ってそう)








 何かを信じる事は出来るのでしょうか。
 貴方は私たちを信じていらっしゃるのかしら。



「どうでしょうね」

 言葉は濁したが、表情こそいつものそれのまま。それにはこちらの方が 呆れてしまう。どうしたらこの方に私たちの声が届くのかしら。

「まあ、背中を預けられる人たちだとは思っています」
「…それだけ、ですか?」
「ええ」

 信じる、というのは、非常に難しいものです。
…嘘ですわ。そんな事はとても簡単だと思う。だけど、それをしたいかしたくないか は難しいとは、思う。何を彼は信じているのか。

「私が信じているのは、私一人だけかもしれません」
(…世界で一人きりだと錯覚していらっしゃるわ。)






「…一人である事を恐れたりしませんよ。そっちの方が気が楽です」
世界で一人きりだと 錯覚したまま 死んでしまいたい。


生まれてから死ぬまでひとりぼっちというのは、どれ程幸せか。




譜眼のうんたらはスター・レッドのを参考にさせてもらいました
ルーク→ティア→ガイ→アニス→ナタリア の順です。ナタリアが最後なのは ナタリアが好きだからです(私が) ラブ


――― 紅翡翠の飾る由縁*01/23